【明日発売!!】「クロハルメイカーズ」著者書き下ろしSS!!!!

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    『クロハルメイカーズ 恋と黒歴史と青春の作り方』発売記念SS

     

    「爆死芸に明日はない」  著/ 砂義出雲

     

     

     

     

     ある日の放課後、俺、澪木湊介が部室に入ると、創造部は禍々しい瘴気に満ちていた。
    「うわっ、どうしたんだこれ」
     俺は、部室全体を見回す。そこにいたのは、星月比香里、楠瀬菜絵、日向夏若葉、桃栗みとせ、武見千春……いつもの創造部メンバー。ただ、その中に一人だけ、凄まじい負のオーラを纏いながら床に倒れ伏している人物がいる。
     

     どうやら、この瘴気の発生源は、武見千春のようだった。
    「な、何があったんだ、千春のやつ……」
     俺が誰にともなく尋ねると、心配そうな表情の比香里が返事をした。

    「それが……千春ちゃん、先ほどまでここでYoutube配信しながら電話を触っていたんですが、なにやら『ガチャ』……? というもので爆死というものをしたらしく……。株式で大損をしたようなものなんでしょうか……? 心配です……」
    「……なんだ、ただのソシャゲじゃないか」


     千春の周辺には使用済みのiTunesカードが無残に散乱していた。さっきまでここで繰り広げられていたであろう悲惨な光景が容易に想像できる。
    「うう……あんな礼装オンリーのグロ画像なんて二度と見たくない……もう乱数単発教も大成功教もこりごりだ……」
     息絶え絶えで床にうつ伏せで倒れたまま、千春は呻くようにそう言った。その千春の手を若葉がそっと取り、人差し指だけ前に出させてからぼそりと呟いた。

    「……とまるんじゃねえぞ……」
    「若葉、人の死体を勝手にオルガ団長にして遊ぶんじゃない!」
    俺は、倒れている千春の側にしゃがみ込むと、諭すように語った。

     


    「千春、あれだけ言ったのにYoutubeでのガチャ配信に手を出したんだな? ガチャ爆死芸はリスクに対して得る物があまりに少ない。高校生の分際で手を出していい領域じゃないぞ。その爆死芸がコンテンツとして成立するのは、知名度が仕事に繋がるイラストレーターとかだけだ……」


     俺がそう言うと、錯乱したまま千春が俺の肩を掴んで激しく揺さぶってきた。

    「そんなこと言うなら返してくださいよ! ボクのお金! ねえ! 消費者庁! 消費者庁の方から来た人ですよね!?」
    「落ち着け。俺は消費者庁ではない」
    そしてまた千春はガックリと肩を落とした。
    「ボクの、お金……」
    「千春ちゃん、可哀想です……」


    「……ただの自業自得じゃない」
     千春を心配する比香里に対して、菜絵は同情する余地なしと切り捨てる。
    「……はあ。仕方ないな。こうなったら、俺たちで千春のために、ガチャを作ってやろうではないか」
     そんな俺の発案に、みとせ先輩が怪訝な顔をした。 
    「わたしたちでガチャ……? 一体、湊介くん、何をする気なの……?」
    「ははは。まあ、一言で言うなら学校生活を少し楽しくする工夫だ。このハイパー・クリエイト・プロデューサー、澪木湊介に任せておけ!」

     

    * * *

     

     

     ――数日後。
    「うっひょー!」
    放課後、部室に入って来るなり千春が俺に紙を差し出す。

    「澪木先輩! 登校ログインボーナスが3つ貯まりました! ガチャを引かせてください!」
    千春が差し出したその紙は出席簿のコピーだ。俺たちは出席簿の記録を「登校ログインボーナス」として使わせてもらうよう、教師陣とあらかじめ交渉を済ませていたのだった。


    「ちょっと待って千春ちゃん、その前にわたしがガチャ引くんだから。一番遅れてきて横入りはダメよ」
    そんな千春を遮ってみとせ先輩が言った。確かに、既に部室には千春以外の全員が揃っていた。
    「ということだ。順番があるんだ。みとせ先輩が先に引くから待ってろ」
    「ちぇ……」
    そして俺は、みとせ先輩に厚紙で作った箱を差し出す。その天面には穴が空いており、そこから腕を突っ込んでクジが引けるようになっている。

     

    「はい、みとせ先輩、ガチャを引いてください」

    「えっと……何が出るかしら〜。あっ、胸がつかえて引きにくい〜」
    「そうやってムダに巨乳アピールをしない」
     前屈みになって箱に胸を押しつけながら、みとせ先輩がクジを思い切り引き上げた。
    「はい! あら、金色のキラキラした綺麗な紙ね!」
     俺はそのクジの文面を確認する。
    『SSR 学食のコロッケパン一ヶ月分 引き換えチケット』

     

    「あっ! すごい! みとせ先輩SSRじゃないですか!」
    「やったあ! うふふ、なかなかいいわね、このシステム。やるじゃない湊介くん」
     千春がみとせ先輩を羨むように言うと、みとせ先輩は飛び上がって喜んだ。俺も満足して笑みを浮かべる。
    「ふふふ。どうだ、天才的発想だろ? 俺は常日頃から思っていたんだ。学校にもログインボーナス的なものがあればいいのにとな! この登校ログインボーナス&部内リアルガチャシステムによって、俺たちは学校に来ることが楽しくなるわけだ!」
    ちなみに、ガチャの内容にかかる費用は部員全員から事前に均等に徴収している。宝くじも当選金は売り上げの中から賄われるわけで、それと同じようなものだ。

     

    「ちなみに、若葉はSRが出てトレーディングカードのセットを……比香里はRで二色ボールペン、菜絵もRで学食のうどん一杯分チケットをゲット済みだ」
     俺がそう言うと、三人も気恥ずかしそうに獲得したものを掲げた。それを見て、千春も腕まくりをする。
    「あれー、みんなもう引いてたんじゃないですか! よーし、ボクもいいのを引きますよお!」
    「よし、それじゃあ千春、気合い入れてこのリアルガチャを引け! 希望の未来をその手に取り戻すんだ!」
    「よおっし……SSR、来い! S・S・R! S・S・Rーーーーー!」

     

     ごそごそとしばらくまさぐった後、千春が勢い良く箱からクジを引いた。
    「それっ! ええと……このわら半紙の紙は……N(ノーマル)……?」
    「ノーマルの何だ?」
    千春は、無表情のままその紙に書かれてある文言を読み上げた。

    『N 靴下を履いた後に指の間に挟まっていた糸クズ』

     

    「……おめでとう」

     

    俺は、千春にビニール袋に入れた糸クズの塊を渡した。
    「…………」
    「どうした、千春? 黙り込んで」

    「もう嫌ですううう! このシステムもやっぱり、幸せになれるかは運次第じゃないですかああ!」
    そんな千春のクレームにより、部内リアルガチャシステムは一ヶ月後、あっけなくサービス終了を迎えたのだった。

     

     

      END