『平浦ファミリズム』書き下ろしSS公開!!

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    第11回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作

    『平浦ファミリズム』(著:遍 柳一 イラスト:さかもと侑)

     

    先週発売されてから、

    各所で賞賛の声が相次いでいます!

     

    「本当に素晴らしい」

              

    「新人とは思えないほどの完成度の高さ」

     

    「読みながら鳥肌が立った」

     

    「万人が読むべき傑作」

        

    「ヤバい。めちゃくちゃ面白い」   

     

    「読み終えたあとの満足感がすごい」

     

    「最高の一冊」

     

    「文句のつけようがない快作」

     

    「……優勝!」

     

    これらの声への感謝の意として、

    著者の遍 柳一先生がショートストーリーを書き下ろしました!

    平浦家のとある日のひとコマ。

    本編を読まれたあとのほうがより楽しめる内容となっています。

    それでは、どうぞ!

     

     

     

     はじめの一歩

     

     あれは、私が引き籠ってから、いつ頃のことだったろう。

     夕ご飯を食べながら、何気なく観ていたテレビ番組。画面には、キャンバスに向かって一心に絵筆を動かす、ひとりの女性の姿が映し出されていた。

     描いていたのは、都会の喧騒を行き交う人々の姿。その絵はまだ完成途中のもので、全体から受ける印象はともかく雑多の一言に尽きた。

     でも、私はそこに描かれた人々に浮かぶ表情、そのあまりの精緻さに、何か胸に込み上げるものを感じていた。それは温かさであり、切なさであり、油断すると涙が出そうになるような、不思議な感情だった。

     疲れた表情をしたサラリーマンを描く時、その女性もまた疲れたような顔をした。母親と嬉しそうに手を繋ぐ子供を描く時、やはり女性も無邪気な表情をするのだった。

     たぶん、その人にとって絵の中にいる人間たちは、向き合うべき世界だったんだと思う。現実と何ひとつ変わらない、想いを寄せるべき他人だったんだと思う。

    「お兄ちゃん! ちょっと!」

     テレビ番組を見終えてすぐにお兄ちゃんを捕まえ、椅子へと座らせる。「ど、どうしんたんだよ」と遅れて声を出すお兄ちゃんに、「しっ!」と静止を促す。そうして早速、スケッチブックと鉛筆を手に、お兄ちゃんの姿を描いていく。

     絵を描くことは、昔から好きだった。

     でも私は、人物画を描くのは、あまり得意じゃなかった。

     だから、まずは近くにいる人から―――そこから始めてみようと、そう思った。

     

     世の中には、本当に、たくさんの人間がいる。

     優しい人。厳しい人。元気いっぱいの人。何かに疲れちゃった人。

     強い信念を持った人や、いろんなことに、思い悩んでいる人―――。

     それはきっと、当たり前のことで。

     でも、私にはまだ、その当たり前が分からなくて。

     だから、もっともっと絵を描いてみたいって、そう思ったんだ。

     そんなやり方で生きていくのは、もしかしたら普通じゃないのかもしれない。

     でも、それが今の私にできる、精いっぱいの世界との向き合い方だから。

     それを応援してくれる人が、私の周りにはいるから―――。

     

    「どうでもいいけど、なんでそんなに仏頂面なんだよ。岬」

     一生懸命に描いていると、お兄ちゃんが怪訝そうにそう言った。

    「だって、お兄ちゃんを描いてるんだから、そうなるもん」

     要領を得ない様子のお兄ちゃん。だが、すぐに「何だそりゃ」と口元を綻ばせる。

     それに釣られて、自然と、私も表情が緩む。

     ああ、少なくとも私、お兄ちゃんにはちゃんと、向き合うことができているみたいだ。

     なんだかほっとして、手元が柔らかくなる。すると、自分でも予想しなかった線が描けた。

     仏頂面だけど、不器用な優しさも垣間見える、なんとも言えないお兄ちゃんの顔。

     うーん。我ながら、いい出来栄えだ。

                                       (了)

    • 2017.07.29 Saturday
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